
チェーンルブに必要な条件ってなんだろう
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レースなどの高負荷には油膜が強くなりやすい高粘度のオイルが有効と言われています。しかしXX15シリーズは非常に低粘度です。逆にレース用の高級ルブとして有名なM社の50ml 9800円のオイルなど150ctsほどの粘度がありますが、GOTALで一番粘度が高い7663でもこの半分ほどの粘度しかありません。
この図は潤滑の概念を表したストライベック曲線と呼ばれる図です。潤滑に必要な油膜は「相対速度 × オイル粘度 ÷ 荷重」により変化すると考えられており、”潤滑剤の粘度が低い”、”摺動部の相対速度が遅い”、”摩擦面にかかる荷重が高い”
場合は「油膜の厚みを確保しづらい=境界潤滑状態に陥りやすい」と言われてます。
しかし、GOTALのサポートライダーにテストをお願いすると一般的な粘度のオイルより低粘度のオイルを評価することが多い。これは油膜の強さからの摩擦軽減効果と粘度による巻き込み抵抗のトレードオフが関係しているのではないかとGOTALは考えています。
オイルは圧力が高まると粘度が上昇し固くなる性質があります。そして摺動面に対してトルクを伝達してしまう。これはオイルの分子構造により差が生まれるのですが、この性質をうまく利用したのがトラクションオイルなどと呼ばれる自動車のATオイル。この伝達の係数をトラクション係数と呼ぶのですが、このトラクション係数が選手たちの評価につながっているのではないか.....。そのバランスをどこに取るのか......。ルブ開発の難しいところです。
一方でオイルは使用環境の温度によって粘度が変化します。良いオイルは使用する温度に影響を受けにくいものが良いとされており変化を動粘度指数という指数で表します。年間の気温の変化だけではなく、チェーンはペダリングの負荷によっても変化するのです。
登りでは速度は低いが負荷は高く温度は上昇。足を止めれば熱を発生しないので走行風で冷やされる、ロードレースなど状況の変化とともに目まぐるしく変化するのです。その為、粘度による油膜に頼った設計をしてしまえば気象条件、シーズン、走行状況でペダリングの感触は大きく変わってしまう。
その為GOTALでは粘度だけに頼らず、IF-WS2などの固体潤滑剤などを併用し温度変化に強いルブを設計しています。
さて、海外製9800円の高級ルブとGOTALの7663-LUBをSRVテスターで比べてみましょう。このSRVテスターはオイルの性能を見る為の世界標準の測定器です。それをチェーンの動作に近くするためにテストピースをシリンダーにし段階的に負荷を加えていきます。
赤い線が摩擦係数、青い線は接触面の挙動、黄色い線が治具まで伝わった温度、黒い線が負荷加重です。
200Nで30分運転し、そこから最終的には2000Nまで負荷荷重を加えます。ちなみにこの試験機のお値段8000万円。
さて、二つにルブは非常に似た特性です。摩擦係数も0.05μを下回る驚異的な低摩擦領域に入っています。しかし高出力時に高級ルブはグラフが揺らいでいます。意外にもレース用ルブですが高出力には耐えず、焼きつきが発生していることを表しています。一方のGOTALの7663は最後まで安定して潤滑をしています。GOTALのルブの設計思想はこの高負荷時でも適切な潤滑がなされていなければいけないと考えています。ヒルクライム、ゴールスプリント、ブリッジでの加速。高負荷での潤滑は自転車のチェーン潤滑にはとても大切。でも意外にできていないルブも多いのです。
SRV試験後のテストピースを比べてみましょう。摩耗面の差は明らかです。2000Nなんて普通は....。と思う方も多いかもしれません。しかし所謂ダンシングをすれば回転数は上がらないのでWの表示は少ないですが2000Nなんてあっという間です。
GOTALのXX43シリーズのご評価で10000km走行したチェーンでも0.75%まで行かないというご評価を頂いているのはこの画像からもわかります。
さて今回はここまで、潤滑油はなかなか面白い世界ですよ。